たびぷら

行った気になって楽しむ妄想旅やリアル旅、日常のこと

【旅な本】夏の朝の成層圏

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旅の意味なんてよくわかってなかった頃に読んで、ある意味衝撃を受けた作品。

主人公は、夜間に漁船から落ちてしまい、漂流します。
漂流のシーンはリアルです。
この世には、こうしてそのまま漂って朽ちていった命もあるかもしれない。
大海原に一人漂う壮絶な孤独と恐怖・・・
を、想像するけど、この本はそういう恐怖物語ではありません。

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とはいえ、漂流に焦点をあててみると、もし、自分だったら恐怖で発狂死するかも。
と想像し、いっそのこと、さっさと死ねたら楽だよなとも思うわけです。
人は意外にしぶとく生きるから、完全に戦いだよな。自分の心と。
でも、この主人公はなんとなく生きる望みを捨てていないんだよね。
同じ状況に陥ったら、誰もがそうなのかもしれないけど。

 

そして、ほんとに奇跡的に、小さな島にたどり着くんだけど、そこからの「生きるために生きる日々」が淡々と、でもとても印象的に描かれます。


僅かな道具と今まで生きてきて培った知識を総動員して、勇気をもって島での生活を確立する。
どんなことにも「工夫」をしよう、という考え方はこういうときに役立つのでしょう。
売ってるものではなく、自分で考えて作る、っていうのは人間の原始的な行為で、
それがちゃんと残っていることが生死を分けるということもあるんだと思う。

 

私は、この、最初の島の孤独な日々がとても好きです。
一方で、自分だったら、終わりの知れない日々にどれだけ絶望するのかと震える。

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孤独な日々が過ぎ、とってもゆっくり、彼が居た世界が近付いてきます。

隣の島に渡った彼は、遂に人間と出会い、元の世界に戻れる状況を手に入れます。

でも、彼は即座に島を出る気持ちになれず、出会った人間(アメリカの俳優という設定)と島での日々を続けていきます。

他の人といるから静かなことが意識される

と気付く。たった一人の人間が現れただけで、世界がとてつもなく広がってしまう。

 

そして、ここからのポイントは、「終わり」を自分で選択できるようになった。ということ。
最初の島での終わりの見えない状況とは全く変わって、「安心」みたいな概念が発生します。

ここからは遭難者、漂流者ではなく、ほぼ旅人です。
貴重な休暇を、その日々を終わりたくなくて続ける感覚でしょうか。

 

読者としては、孤独な日々があまりに強烈で鮮烈であったから、少し寂しく思えてしまう。

でも、自分に置き換えてみると、この旅の終わりの始まりはとっても理想的な状況だとも言えます。。
少しずつリハビリのように元の世界の感覚を取り戻していく・・・

 

孤独な日々への執着、原始的な生活への執着、小屋を出るときの執着。
その日々が濃密で充実していたこと、大切にしていたこと、それが終わってしまうから執着するんだと思う。

 

この本は、究極の旅人の本。
漂流したくないし、遭難したくないけど、旅のカタチとして憧れます。

読みながら、自分とも向き合っているような錯覚に陥りました。